中條 拓伯 准教授
神戸大学出身の私が、農工大学に研究拠点を置くことになったキッカケは大学の公募でした。
関西には神戸大学のほかに京都大学や大阪大学がありますが、募集における研究分野が自身の取り組みにぴったり当てはまっていたことに加えて、同じ国立大学であること、また、農工大の気風に神戸大のそれと相通じるものを感じたことが挙げられます。
農工大に入学してくる学生には、大学がそれなりの中心地に所在していること、また国立大学であることの誇りというか、胸を張れると受け止めている面を感じます。
頑張れば頑張ったなりの成果が得られて、世に出るチャンスが多々あること、またメーカーで物づくりのできる技術をしっかりと身につけられることが強みとして挙げられます。
頭の中の理解だけでプログラミングするというレベルに甘んじずに、物の動きが見えていることが企業から求められる設計者としての評価になります。設計力と実装力を身につけて社会へ出てゆくことが大切です。
ここ数年日本だけの傾向ではなく、アメリカにも共通した現象が見られましたが、情報工学を目指す学生の数が減少していました。今日、あらゆる製品にコンピュータが導入されていて、ブラックボックスながら動くのが当たり前の感覚が広がって、いまさら研究するまでもないとの思いが、志願者数の減少に影響していたのかもしれないです。
しかし平成23年度における本学の入試倍率を見ると、復活の傾向が見られます。
ひと頃、中学、高等学校における理科離れの問題が取り沙汰されてきましたが、これには、科学の重要さをしっかりと教えられる教師の数が、足りないことに起因しているとの思いがあります。また実験にしても危険を避けることが最優先されている辺りにも、理科への興味を育てられない原因があるのかもしれないですね。
研究室には、「大規模高速回路実現のための回路分割方式」とか、「Computational Fluid Dynamicsのハードウェアアクセラレーション」という取り組みがあって、JAXAにおける次世代スーパーコンピュータの候補にもなり得るとの認識を持っています。
民主党政権下の事業仕分けの中で、蓮舫大臣による「世界2位ではいけないのですか?」との発言が話題を呼んで流行語にもなりましたが、世界2位で満足させる発想は戴けません。
スーパーコンピュータに限らず、学問に携わる者にとっての思いというか夢には、単に論文を書いて終わりではなくて、世の中で使ってもらって世の中が豊かになることを目指しています。特に工学という分野では使ってもらって初めて価値が評価されます。2番手では研究成果の名前も残りません。
私は研究の成果がある程度まとまった時点で、それがオリジナルである限り出来上がったものに必ず名前をつけるようにしています。これが農工大の○○だ!△△研究室の成果だ!と評価されるようになると、誇りを持って世の中に巣立ってゆくことができるので、学生にはそういう形で育って行って欲しいと思っています。
私が担当している学部生への授業には、「論理回路」、「計算機アーキテクチャ」、「集積回路」の3つがありまして、ハードウェア関係を受け持っています。
論理回路の授業で1年生に伝えていることは、ソフトウェアが重要な位置づけにあることは勿論であるが、ここ数年、世の中から求められている人材とは、プログラムが書けることは前提であるけれど、プログラムを書けるだけなら情報処理工学を修めていなくても書ける人は書ける。
プログラミングの世界で達人といわれる人たちは、プログラムを書けるだけではなく、ハードウェアの動き、特性を理解した上でコーディングする力を有しています。つまりハードウェアの仕組みが理解できていて、プロセッサーの中身がどうなっているかを判っている。ソフトウェアによってハードウェアがどう動くかを理解しているという人材が求められています。
いま世の中で、Androidという技術が大きく注目を浴びています。
Androidのシェアはどんどん増えていて、今後ますます増え続けると見られますが、一つはオープンソースであることがその要因になっていると考えられます。
アプリに活用することにとどまらず、自作のハードウェアをつないで動かすためには、OSのソース部分に手を加えることが必要になる。
ソースが公開されるということはUNIXがそうでしたが、中身に手を加えることが可能になる。iPhoneに採用されて、いろいろなアプリケーションに活用されているのが好例でしょう。
さらに今後は単体としての利用にとどまらず、ネットワークを意識した使い方というか、誰かと繋いで通信するというような、ネットワークを絡めた利用が重要になってきます。
私自身が取り組んでいるのは、外側ではなくて内側の部分です。あれもやりたいこれもやりたいとアプリを増やしてゆくと、やがてはどんどん重たくなって速度が落ちるという結果に到達します。
人間は速度の遅さには耐えられないので、速度が遅くならない仕組みを提供しようという方向で研究を進めている次第です。
大学には企業等との共同研究がありますが、これを企業側から見ると、研究成果とは別に研究に加わっている学生の力量をつぶさに観察できます。この学生なら是非に欲しいと迎えられるケースに結びついています。
もう1つ大切なことには、学会での活動があります。学会での発表やシンポジウム、あるいは、研究会等に企業から参加をされる方もたくさんあり、その学生の研究内容や成果を知っていただく機会になって、就職に至るケースも生まれます。
その意味で内の研究室の学生には、積極的に学会活動への参加を働きかけています。
内の学科を目指す学生に望むことは、何事に対しても「何故だろう?」という疑問を持って欲しいことです。与えられたものを鵜呑みにすることなく、「本当かな?、何故だろう?」といった見方を絶えず持ってもらうことが重要に思います。何でも当たり前との受け止めで物を見てしまうと、新しい発想は生まれません。
国際化という視点で着目すると、留学生の存在が挙げられます。
彼らは大変に真面目で有能で、日本で学ぶことに憧れを感じています。
日本の学生から見た(接触する)メリットとしては、他の世界を知る機会を得られることと併せて、英語に馴染む機会が増える点が挙げられるでしょう。
受験生に限った話ではありませんが、最近の若者は海外にあまり出たがらない傾向があるといわれています。
私は短い体験ではありますが、世界中の研究者と出会うというか交流を持てたことが、広い世界を知る機会になりました。その意味で留学を目指す学生にはいろいろな紹介先を持ち合わせているので、是非チャレンジして欲しいと思っています。
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